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【研究成果】キラリティーを持たない原料のみから常に単一のキラリティーを誘導する「絶対自然分晶」という極めて珍しい現象を提唱

<自然科学の未解決問題に関わる新規の現象を観測!>

 岡山大学大学院自然科学研究科・学際基礎科学専攻・博士後期課程3年生の髙原一真さん (本学フェローシップ一期生, 鈴木孝義研究室) らが投稿した論文が、その研究成果を高く評価されアメリカ化学会が刊行する国際学術誌「Crystal Growth & Design」の23巻7号の表紙「Supplementary Cover Art」に採択されました。(図1)

【研究概要】
 私たちの身の回りの物質を構成する分子の中には、同じ組成でも立体構造が右手と左手のように、鏡写しの関係でありながら、互いに重ね合わせることができない性質「キラリティー(対掌性)」を持つものが多く存在しています。右手と左手の分子が等量ずつ含まれたものは「ラセミ混合物」として存在します。右手と左手では、生物(人体)への相互作用の仕方が大きく異なり、創薬等において悪影響を示した事例も過去に報告されています。そのため、右手または左手のみの分子を選択的に合成できる手法の開発が重要な課題であり、近年までに、キラリティーを持つ触媒や、高い外部エネルギーの手助けを借りる研究が進められてきました。
 髙原さんらの研究室では、キラリティーを持たない原料のみから合成した金属錯体が、常に左手分子100% を含んだ結晶のみを生成している事象を見つけ (図2) その発現原因について金属イオンの電子状態の観点から考察しました。このような結晶化をする際に一方のみの単一結晶のみを選択的に生成する極めて珍しい現象を「絶対自然分晶」(Absolute Spontaneous Resolution) という新規の現象として提唱し、結晶間でのキラリティーの誘導・伝搬によって、通常の条件では得られなかった右手分子を100% 含んだ結晶を獲得することにも成功しました。

図1. 採択されたCover Art

 自然界に存在するアミノ酸や糖類にも、右手または左手のみのキラリティーが存在していますが、その原因は未だ解明されていません。本研究成果は、結晶化に際する分子のキラリティーの発現や伝搬のメカニズムの解明にも繋がり、自然界のキラリティーの発現等、未解決問題への解明に一歩近づいたと言えます。

図2. キラリティーを持たない有機化合物と二種類の金属イオンが結合して、左手 (Λ)キラリティーの金属錯体を含む結晶のみが生成する模式図 (絶対自然分晶の発現)

掲載誌情報

【発表雑誌】Crystal Growth & Design(IF=4.01)
【論文名】Crystallization Behavior of Heterotrinuclear ZnII−LnIII−ZnII Complexes Bearing Two Tripodal Nonadentate Ligands: Possibility for Absolute Spontaneous Resolution
【著者】Kazuma Takahara, Yuki Horino, Koki Wada, Hiromu Sakata, Yukinari Sunatsuki, Masaaki Kojima, and Takayoshi Suzuki
【掲載URL】https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.cgd.3c00458